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混迷の度を深める後期高齢者医療制度最近、医療問題に対する関心が高まっているが、その要因の一つが平成二十年四月に施行された後期高齢者医療制度である。
法律が成立したのが平成十八年六月であり、施行までに二年弱の期間があったにもかかわらず、大変な混乱が生じている。
国民からの相次ぐ批判を受けて、施行してから約二カ月後の六月十二日には、低所得者の保険料負担軽減の拡大や保険料納付の肩代わり容認を柱とした改善策をまとめた。
さらに、九月に入ってからは、当時の福田康夫総理大臣が辞任表明したあとの政権末期に、舛添要一厚生労働大臣が後期高齢者医療制度の見直しを表明した。
そして、その後就任した麻生太郎総理大臣も、九月二十九日の所信表明演説で「高齢者に納得していただけるよう、一年を目途に、必要な見直しを検討します」と述べている。
このように相変わらず混乱の続く後期高齢者医療制度であるが、この章では、なぜ後期高齢者医療制度は導入され、そこにはどのような問題があるのか、論じていくこととしたい。
後期高齢者医療制度導入の背景そもそもなぜ高齢者医療制度の改革が行われたのか。
この新制度を盛り込み、老人保健法から改称された「高齢者の医療の確保に関する法律」は、第一車「総則」の次に第二車「医療費適正化の推進」がくるというかたちで、医療費適正化が前面に出ていることもあり、しばしば医療費削減のための法律だと批判され、「平成の姥捨て山」とまでいわれている。
結果的にそうした面も色濃くなってはいるものの、もともとそうした意図が明確にあったわけではない。
あくまで高齢者の医療費を誰がどのように負担するかという「財源の持ち合い」が議論の出発点であった。
従来の老人保健制度では、高齢者は国民健康保険もしくは被用者保険(健保組合、政府管掌健康保険、共済組合など)に加入したまま、それぞれに保険料を納める一方で、医療の給付は各保険者の共同事業として市町村によって行われていた。
その財源は国民健康保険と被用者保険それぞれからの拠出金と税金でまかなわれていた。
これは、市町村国保への高齢者の偏在に伴う財政負担を調整するために導入された仕組みであった。
しかし、この制度のもとでは、給付主体(市町村)と財政主体(保険者)が分離しており、161制度運営の責任主体が不明確であった。
また、誰がどれだけ費用負担しているのかも不明確であり、健保組合などからは負担が野放図に膨れ上がることへの懸念が示されていた。
さらには、市町村国保の財政運営も年々困難になっており、新たな財政調整の仕組みが求められていた。
七十五歳以上を対象にした老人保健制度だけではなく、一正の要件を満たす七十四歳までのサラリーマンOBを対象として行ってきた退職者医療制度も含め、制度的に行き詰まっていたのだ。
つまり、必ずしも医療費削減そのものが後期高齢者医療制度の本来の目的ではない。
老人保健制度や退職者医療制度の問題点を改善するため、高齢者の医療費を支え合う新たな制度体系が必要とされていた。
そこで新たな高齢者医療制度について、長年にわたって議論が積み重ねられてきたのだ。
たとえば、一疋年齢以上の独立制度とするか、被用者は退職後も市町村国保に移らず被用者保険にとどまる「突き抜け方式」とするか、国民健康保険と被用者保険を一本化するか、多くの関係者の利害が入り乱れるなかで、それぞれの立場からの提案が行われた。
また、独立制度にする場合は、何歳で区切るか(たとえば、七十五歳か七十歳か六十五歳か)、誰が保険者になるのか(たとえば、市町村か都道府県か国か)、公費の負担などの財源構成をどうするのかなど、さまざまな議論がなされた。
こうした状況のなか、厚生労働省はいくつかの提案を部分的につぎはぎをしたかたちで、七十五歳以上を独立制度(後期高齢者医療制度)とし、六十五歳から七十四歳までは国民健康保険と被用者保険の医療費負担の不均衡を調整する新たな仕組み(前期高齢者医療制度)を導入することにした。
こうした方針の枠組みは、法案成立からさらに三年以上さかのぼる平成十五年三月二十八日に閣議決定された「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針」において決定された。
その意図するところは明白である。
後期高齢者医療制度と前期高齢者医療制度の双方を通じた制度改革の結果、市町村国保の財政負担を減少させることだった。
すなわち、市町村国保の救済というのが究極の目的なのだ。
これにより、健保組合の財政負担は増加する。
実際に、制度導入後、負担増に耐えられなくなった西濃運輸健保組合が平成二十年八月一日付で解散するまでにいたっている。
すべての立場の人たちが満足するような改革はありえない。
医療費を不変とすれば、結局は誰かが何らかのかたちで負担しなければならないからだ。
負担をどう分かち合うかという議論は、負担の押しっけ合いの議論と化した。
実際、関係者の間での合意形成は遅々として163進まず、審議会の意見書も各論併記にとどまっていた。
議論の取りまとめの最終局面であった平成十七年十一月三十日にまとめられた社会保障審議会医療保険部会の「意見書」では、次のように記述されている。
ここには、当時行われていたおおよそすべての提案が網羅されている。
少し長くなるが、いかに各論併記だったかを示すため、引用しょう。
用基本的な枠組み○高齢者の医療制度について、現行の老人保健制度を廃止し、高齢者の保険料、社会連帯による相互扶助の考え方に基づく国保及び被用者保険からの支援並びに公費を財源とする新たな独立した制度を創設すべきという意見が多かった。
○ただし、被用者保険の加入期間が長期にわたる退職者をそれぞれの被用者保険が支える新たな制度を創設すべきとの意見もあった。
佃被保険者○独立した高齢者の医療制度を創設する場合の被保険者は、高齢者の生活実態、経済的地位、心身の特性及び支え手を増やすなどの観点から、75歳以上の者とすべきとの意見がある一方、年金制度等との整合性や、75歳以上とした場合には65歳〜74歳の者について保険者間の財政調整を行う仕組みは制度が複雑になるなどの観点から、65歳以上の者とすべきとの意見があった。
刷運営主体○運営主体については、都道府県単位を軸とした保険者の再編・統合の方向性に沿って考えるべきであるが、具体的には、市町村をベースとした広域連合等を活用すべきとの意見、公法人とすべきとの意見、都道府県とすべきとの意見、国とすべきとの意見があった。
〇一方、保険者を誰にするにしても、適用・徴収は市町村が実施すべきである。
また、保険料を年金から徴収する仕組みを設けるとともに、保険リスクを広域単位でできる限り軽減すべきである。
さらに、高齢者の保険料について統一的な保険料を設定すべきとの意見や、近い将来に都道府県単位での財政運営への展望を示すべきとの意見があった。
同費用負担○高齢者の保険料負担については、低所得者に対する適切な軽減措置を講ずるなど、現行の国保における保険料の仕組みも勘案して制度設計すべきである。
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